寿命とは何か

そもそも生物にとって寿命とはどのような意味を持つのでしょうか。
通常生物には寿命があり、その寿命を全うすると死を迎えます。
しかし、私たちの周りには死と無関係な生物がいるのです。
長寿遺伝子のテーマに入る前にこの生物たちにスポットを当ててみましょう。

死と無関係の生命

水田・池に生息する生き物で「プラナリア」というナメクジのような形をした生物がいます。
プラナリアは死ぬことがありません。
たとえ二つに切断したとしても、1週間ほどで2匹になってしまい、またプラナリアは切断しなくても勝手に分裂して増殖していきます。
ある研究では、1匹のプラナリアが1年で3000万匹になったという報告もあります。
なぜプラナリアにはこのような能力があるのでしょうか。
それは「全能性」という能力にあります。
プラナリア体は体全体に全能性幹細胞という細胞が分布しています。
全能性とはある細胞があらゆる細胞に成ることの出来る、つまり完璧な個体を形成できる能力をいいます。
人間の受精卵にも全能性がありますが、人間の場合は受精卵が細胞分裂を始めるとその全能性は失われてしまいます。
通常細胞は全能性を失った後はそれぞれの役割ごとに決められた細胞に成長し、他の細胞になることはありません。
しかし、プラナリアの全能性幹細胞は成長してからも全能性を失わないため、成長してからも交尾をせずに細胞分裂だけで増殖できる不思議な生き物です。
今、IPS細胞やES細胞が話題になっていますが、これらの細胞はそれぞれ違う方法で全能性を持っています。
多くの植物でも全能性を持つものがあることは広く知られています。
動物であるプラナリアは、全身に全能性を持つ全能性幹細胞が分布しているので、ばらばらに切断されてもそれぞれが完璧な個体に成長できます。
また、通常の細胞は紫外線やウィルスなどで傷つき寿命が短くなりますが、全能性幹細胞の場合は分裂のたびに更新されるので、環境が合っていれば半永久的に生き続けることが出来ます。
プラナリアには寿命がないといっても過言ではないのです。

つまり「全能性」が不老不死のカギだということです。
意外なことに地球上には全能性を持った生物は数多く存在するのです。

生物の歴史は不老不死から始まった

生物の歴史の始まりは単細胞からでした。
菌類など、原核生物と呼ばれています。
単細胞生物は地球上に誕生した生物で最も古いもので、同時に最大の集団でもあります
生息域はとても広く、科学者が想像してもいないような地域にも存在しています。
成層圏・氷の中・深海・海底火山・人間の体の中などありとあらゆるところに存在します。
特に腸には、人間を構成する60兆個の細胞の100倍を超える数の菌が存在するといわれています。
単細胞生物はひとつの細胞で一つの体を構成しているので、その体は全能性を持っているということが出来ます。
プラナリアの場合は、全能性幹細胞がどんな細胞になれるだけでなく、分裂の度にその寿命はリセットされています、同じ能力が単細胞にもそなわっています。
細胞分裂するたびに寿命はリセットされるため、事故で死ぬ場合や捕食される場合を除いては死ぬことがありません

単細胞生物と対極にある多細胞生物

一方、私たち人間は60兆個の細胞の集まりで出来た多細胞生物です。
たった一つの細胞から分裂を繰り返し様々な種類の細胞に分かれてひとつの体を形成しています。
多細胞生物であるということは基本的に全能性を失った状態で生きているということであり、死を宿命付けられているということでもあります。
なぜ死が必要なのかはよくわかっていませんが、ミトコンドリアとの関係が指摘されています。
多細胞生物の持つ細胞は真核細胞といわれていますが、DNAを格納した核、細胞内の小器官、細胞のエネルギー工場といわれるミトコンドリアを持っているという特徴があります。
ミトコンドリアはATPという細胞にとってのエネルギーを作っていますが、このATPを作る過程で「活性酸素」を蓄積していきます。
この活性酸素が細胞内を傷つけ、老化・死を引き起こすと考えられています。
片方では細胞に必要なエネルギー、他方では毒素、毒素だけを抑えることは出来ないと考えられてきました。
単細胞生物とは違い、多細胞生物は死を受け入れる代わりに地球上に誕生したのではないでしょうか。
多細胞生物にとって死が必然であるとして、生物の寿命はどのように決まっているのでしょうか。

多細胞生物が免れない「死」。

多細胞生物の体内では絶えず役目を終えた細胞が死を迎えていきます。
この、老化して自ら死を迎えること、これを細胞の自殺「アポトーシス」といいます
アポトーシスには大きく2つの役目があります。

一つは体の成形です。
例えば胎児の手には両生類だった頃の水かきがついていますが、成長過程で消えていきます。
この水かきの部分の細胞がアポトーシスを起こすことで人間の体が形成されるのです。
もう一つの役割は、生物の代謝を支えることです。
細胞は生命活動を経る上で、活性酸素や紫外線・放射能・ウィルスなどによりダメージを受けます。

全能性があれば細胞分裂によってリセットされますが、多細胞生物はそれがないので老化した細胞には免疫細胞がやってきて、その細胞に死の命令を下します。
それによって細胞が死ぬか死なないか自ら判断するのです。
細胞が死を選んだ場合、傷のついたDNAは最終的にマクロファージによって食べられ、最終的にはなくなってしまいます。
ここが、アポトーシスの大切なところで、DNAが外に漏れてしまうとガンなどの思い病気を引き起こすので、マクロファージがそれを防いでいるのです。
細胞がアポトーシスを起こすとその失われた細胞の分新しい細胞が作られます。
そのペースはからだの場所によって違いますが、
表皮細胞は30日ほど、赤血球は3ヶ月、肝臓はおよそ1年で全更新します。
1日で約3000億個の細胞がアポトーシスを起こしているといわれ、200日で体のほとんどすべての細胞が入れ替わります。

生命の回数券

全能性を持たない多細胞生物であっても、新しい細胞が出来るなら死を免れることが出来そうに思えます。
しかしそれが不可能なのは、アポトーシスを補うための細胞分裂の回数があらかじめ決められているからです。
この回数を発見したのが、レオナルド・ヘイフリック博士でこの回数を「ヘイフリック限界」と呼んでいます。
動物によってこの回数は違い、人が60回、マウスが10回、ガラパゴスゾウガメは125回出来ることがわかりました。
この細胞分裂の回数が寿命に関係するのではないかと言われています。
またこの回数を決定しているシステムはどの動物でも同じで、遺伝子を運ぶ染色体の端にテロメアと呼ばれる特殊な構造があり、これが分裂ごとに短くなっていきます。
これが一定以下の長さになると、その細胞は分裂が出来なくなり細胞は死ぬ以外になくなります。
単細胞生物の場合はテロメアがないため細胞分裂の上限はありません。
また、アポトーシスにはもう一つのシステムがあり。
体細胞には再生系と非再生系があり、再生系は細胞分裂を繰り返し細胞分裂回数に限界が来ると死んでいくタイプ。一方非再生系で代表的なものとして神経細胞・心筋がありこれらは細胞分裂を行わず一生機能を果たし続けます。
非再生系の細胞は分裂をしませんが、耐用時間が決められており、人の神経細胞は120年程と言われています。

死を乗り越える戦略

単細胞と違って、私たちのような多細胞生物の細胞にはあらかじめ寿命が仕組まれていますが、死を遠ざけるために寿命を延ばすにはどうすればいいのでしょうか。
プラナリアのような体細胞を変化させて寿命や損傷をリセットすることは現代医学ではどうやら無理のようです。
他に考えられる点を考えてみると、

  1. 細胞分裂までの時間を延ばす
  2. テロメアを伸ばして細胞分裂の回数を増やす
  3. 非再生系の細胞の寿命を延ばす。

といったことが現実的かもしれません。
1と3は大型動物が実現しています。
哺乳類は体が大きいほど寿命が長いことが知られており、体が大きいほど代謝が遅くなるので長寿になることが分かっています。
2についても実際に例があり、テロメアを短くしないテロメラーゼという酵素を使い細胞分裂の回数制限を取り払っています。がん細胞などがその好例です。

命の引継ぎ

生命とは何か・・・様々な項目を挙げられると思いますが、生殖してDNAを次々に後の世代に受け継いでいくことが上げられるのではないでしょうか。
個体としては死んでしまいますが、子の世代にDNAを引き継ぐことによって何世代にもわたって生き続けるのです。


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